本のエンドロール 感想
- 2018/08/25
- 23:32

斜陽産業と言われる印刷業に携わる人達の物語
電子書籍のせいなのか不景気のせいなのか少子高齢化なのかネット通販の発展のせいなのかはわからないけど本屋が減ってるのは実感出来る。ただ、ミクロの話するとどんどん部屋に本が増えてるんだよなあ。
著者/安藤祐介
あらすじ
印刷会社の営業部の浦本は自社の会社の説明会に出席していた。そこで就活生に夢を聞かれた先輩社員の仲井戸は驚愕の答えをする。「夢は目の前の仕事を手違いなく終わらせる事だけ」説明会全体に空気に怪しい空気が漂ってしまったので浦本が「夢は印刷会社をものづくりメーカーにする事」と答えた事で安心感の一旦生まれる。
しかし、再度質問された仲井戸が「印刷会社は本作りをしてるのではなく作業工程を請け負ってるだけなのだから今の立場に徹するべき」と言っしまい重い空気のまま説明会は終了した。浦本はこの仲井戸を超える社員になる事を決意する。
印刷製造部の野末は苛立っていた。薄利多売で仕事は増えるのに人員は減らされ負担が大きくなる。そんな中、スケジュール管理の甘い浦本が無理な要求を受け入れるせいでそのしわ寄せが現場に来ていた。野末は浦本の夢見がちな性格、ポリシー、仕事のスタンス全てに苛立っていた。
来年の本屋大賞はこれでいいぞ。本屋大賞よく知らんけど。この本を読む人が増えればなんでもいい。
「ほーん、出版社じゃなくて印刷会社の話とかおもろそう」ぐらいの気持ちだったんだけど読んでほんとに良かった。泣くような話をではない筈なのにこの本の奥付を見た時、泣きそうになってしまった。
本に限らずだけど製品が1つ出来上がるまで多大な時間と人を要する事を再認識させられた。特に本は作家が創り上げるイメージが強かったけどそうでもないみたいだ。作家がいないと中身が出来ないけど編集、印刷会社居ないと本にならない。
今日までちょいちょい小説読む癖に小説の物の方の制作過程については全く考えた事なかったなぁ。作家と編集でバトルしてるんだろうなあとかは思ってたけど。
この作品内でも葛藤があったけれど電子書籍はどこまで伸びるんだろう。電子書籍が伸びれば紙の本は減少傾向になるだろうし本屋も減っていくのが道理な訳で。専用端末が無くてもスマホさえあれば電子書籍が読める時代だし。印刷業界は向かい風だな。
現状自分は電子書籍にする気は無いけど時代の流れと利便性という魔力に抗えるのだろうか。ガラケーはスマホに淘汰されつつあるし手紙はメールになったしビデオはDVDになったし現金すらカードや電子マネーにする人も現れた。本はどうなるのだろう。音楽業界を見る限り消滅は無さそうだけどシェアの比率は変わるんだろうな。
良い本が造りがたい為に出版社の言いなりになってしまう浦本、仕事は金の為と割り切る野末、印刷機の稼働率が全ての仲井戸、インキ職人のジロさん、横柄な編集の奥平、DTPが天職の福原。皆が皆魅力的な登場人物だった。
特に野末がね…ただでさえ現場がキツイのに家庭の負担が重くのしかかっていたし。全体を振り返ってみると浦本より野末のが成長していたんじゃないかと思うレベル。
浦本には浦本の正義があって仲井戸には仲井戸の正義があるのはわかる。ただ、やっぱり最後まで仲井戸のプロフェッショナル感が好きだった。主人公の浦本の未熟さ故に引き立てられていたのだけれど。それにしても浦本はホウレンソウ怠りすぎじゃないですかね…
奥平が只の嫌な編集かと思ったらちゃんと矜持をもった奴だったのがよかった。最初の印象悪過ぎだろ…
営業と職人の衝突、出版業界の厳しい現状、電子書籍の台頭、現場を知らない横暴な作家の注文、知らないで見ようともしなかった本作りの裏の部分をリアルにダイレクトで見れる一冊。
本を読む全ての人は一度読んだ方がいいのではとまで思った作品だった
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